季節をさかのぼり、夏本番にさしかかり始めた7月上旬のこと。 いよいよお日様が本気をだしてきたなぁと目を細めて外を歩きはじめるこの時期は、街中のファッション施設がそれぞれの色味をだしたバーゲン広告に染まる頃でもある。
この日、会社に着いた私は家から持ってきたデジカメをスチャリとかまえ、隣の席の女を突如パシャリと試し撮りしてみた。カメラは問題なさそうだったが、なんだかさえないポーズの女が撮れた。
そして、もう一人の別のスタッフと共にいってきまーと会社を飛び出し、全くどうでもいい話をしながら地下鉄に乗りこんだ。涼しい。
私たちが向かった先は、なんばCITYとなんばパークス。ここ何年かの間とっても嬉しいことに、夏と冬のバーゲンビジュアルを制作させていただいている。
なんば駅に到着し、てくてく歩きながらCITYに向かう道中(平日なのに人が多いなぁ。私はなんて大都会に出稼ぎに来ているのだろう。)というようなことが頭をよぎっていたが、まだどうでもいい話をぺちゃくちゃ続けていた。
そうたくさん歩かないうちに、毎日Macの画面の中に見ていたセクシーなあの子が見えてきた。
2人のベティちゃんにはそれぞれ、CITYとパークスに在店されるお店のおすすめのお洋服を着てもらっている。
私のMacでひたすらちょこちょこと、まるで端切れを縫い合わせていくような作業で着せられていったお洋服。それを立派に身につけて、こんなにたくさんの人の前で堂々とポーズを決めている。
いつのまにか会話はなくなっており「大きいなぁ」と2人でぼーっと見上げた。 掲出物そのものの大きさ。そして、この道を通る大勢の人間の見たいという思考の有り無しに関わらず視界に、すなわち脳にお邪魔させてもらうものを作っていたのだなぁという事の大きさが、私たちをしばらく静かにさせた。
なにかじんわりした気持ちでそのままパークスへ歩いていくとすぐに、涼しげな小さな噴水が目に入った。
絶賛子育て中の私は、夏はこういう水場が本当にありがてぇなと思いながら中へ進んでいくと、さらに楽しそうなドライミスト現場に遭遇。
はしゃぎまわっている可愛らしい兄妹を尻目に、ベティさまを拝みに向かった。館内に散りばめられた植物の緑と、広告のベースカラーの黄色の組み合わせが、なんだかとっても爽やか。
私たちが我が子を愛でるかのようにベティ神の写真をバシャバシャ撮っていると、なんだ?なにか撮るべきものなのか?と感じたのであろう、同じようにベティちゃんを写真におさめだした通行人が何名かいらっしゃった。
少しの間かもしれないが、彼らのカメラロールに自分の手がけたデザインが残ることがなんだか嬉しいと思った。
ホクホク気分の私は、いま隣にいるスタッフが甘い食べ物を好まずいつもアテのようなものをつまんでいる酒呑みであることを忘れ、そのままパフェでも食べて帰りたい衝動に駆られたが、我慢して会社にもどるためのホームへ向かった。
いつも、掲出現場を訪れると思い出すことがある。
施設の方、ショップの方、掲出先の施設の方、代理店の方々はもちろんのこと、印刷会社の方、紙やトナーを作っている方、動画担当の方、現場でポスターを貼ってくださる方、はがしてくださる方。きっと挙げればきりがない人たちの手によって、私たちのデザインした子たちは日の目を見ることができている。
少しでも誰かの嬉しい気持ちにつながるようなものを作らないと、バチが当たる。それが私たちのお仕事なんだなぁと思うと、とても幸せな気持ちになるのである。