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イモムシとの思い出

年の瀬にベランダの観葉植物を片付けていたら、今年の夏のことを思い出した。


まだ梅雨の開けない7月初旬、「次は花見できるといいね」と言いながら別れた友人たちとはもう5ヶ月あっておらず、毎年楽しみにしていた桜の通り抜けも今年は中止だった。ゴールデンウィークももちろん家、たのしみな映画も延期、サッカーは無観客。

なくなったことばかりを気にしてもいけないので、簡単に春気分を味わえるものを探していたら、ベランダの観葉植物コブミカンに今年もイモムシがたくさんいるのに気がついた。

これだ!これを育てて蝶にしよう!

 

7月3日 (雨)

こういう時は卵から育てるもんだろと思うのだけれど、すでに大きいイモムシがいたので3匹ほど捕獲して、ダイソーで買ってきたカゴに入れた。エサはさっきまで食べていたコブミカンの葉っぱを入れていく。

前段を飛ばす雑な自由研究だ。

こうやってまじまじと見ると、ものすごいスピードで食べている。そりゃ毎年葉っぱがなくなるわけだ。

彼らにも好みがあるらしく、それなりに時間の経った古い葉っぱは「これしか食べるものがない」って時には食べるんだが、若い葉っぱを入れた時は、首をにょーーんと伸ばして待ち構えている。そうだよね、炭酸の抜けたぬるいビールは嫌だよねえ、と勝手に共感するが、基本は古い葉を与える。

若い葉はお前たちにすでに食べ尽くされているからだ。

 

7月4日 (曇)

翌日になると1匹はカゴの上の方で丸まっていた。

サナギの前段階、前蛹(ぜんよう)というらしい。もしかしたら古い葉がお気に召さなかったのかもしれないが、わからない。ほかの2匹は、1匹は動かず、もう1匹は黙々と葉っぱを食べまくっている。3者3様だが、喋らないので意思疎通を取れず、黙々と古い葉を与える。おもいのほかスピーディ。

 

7月9日 (雨)

前蛹になっていた彼は翌日には立派なサナギになっていた。葉っぱに似せて、葉脈のようなものもあり、見事な擬態である。幼虫(茶色いの)終齢幼虫(緑の)サナギと、これだけ形が変わりながらも同じ生き物というのがとても不思議だ。

翌週には残りの2匹も近くの場所でサナギになっていた。彼らに取ってのベストポジションなのか仲がいいのかわからないが、一斉に羽化したらお互いジャマにならないかな~とか思う。

 

7月14日 (雨)

最初のイモムシがサナギになってから10日たつが音沙汰がない。

サナギは触ると動くらしいのだが、壁に捕まっている糸が切れると羽化がうまくいかなくなるらしく、うかつに触ることもできない。餌も食べない反応もないというのは少し不安だが、見守る。

 

7月15日 (曇)

3週間が経過し、サナギの色が変化している。

検索で「サナギが急に色が変わり、羽化しないのは寄生虫が原因」というのを読み、条件に該当しているので落ち込んでしまう。勝手に飼って、勝手に殺してしまったかもしれない身勝手さを反省していると、翌日にはもう1匹のサナギも急に黒くなっており、のんきに飼っていた反動で頭を抱えた。大丈夫か…?

 

7月16日(晴)

翌日、梅雨の間の珍しい晴れ間で、汗をかきながら会社に行く。急な温度差に体が慣れず天気の文句をワーワー言っているところで、同僚との「セミも急に出てきてうるさいよねえ」「そういえばセミって急にわらわら出てくるよね」という会話をして「まさか!」と思う。コナンのようなひらめきの「まさか!」だった。

早速家にいる妻に連絡を取り、カゴの中のサナギの様子の撮影を頼むと、そこには、空っぽになったサナギが写っていた。なかなか羽化しないのは体調や病気ではなく、天気を待っていたようだ!

羽化が見れなかった残念さよりも、ホッとした気持ちが強かった。残念ながら、1匹は本当に寄生虫にやられていたが、もう1匹は知らない間に羽化していた。残る1匹はもしかしたら明日にも羽化するかもしれない、そんな期待を抱いて翌日を待った。

 

 

 

 

7月17日 (曇)

朝起きて、カーテンをバッと開けると、そこには羽化したばかりの元イモムシがいた。

近寄っても逃げる様子はないので、しばらく近くで眺めていた。羽をゆっくりと開閉する動きを繰り返し、脱ぎたてのサナギの殻の近くで羽が乾くのを待っているようだった。

まじまじと眺めても、目も、口も、足も、体もイモムシだった頃の面影はまるでなく、羽根はあのサナギに入ってたとは思えなくらい大きい。

写真を撮ろうと虫かごをゆっくり動かすと、羽を大きく広げ精一杯の威嚇するが、まだ自由に動けないようだ。足の位置を少し動かしながら、顔や羽など、じぶんの各パーツを確認するような動きを繰り返している。

しばらく見ていると、お尻の辺りを動かしながら、顔をキョロキョロする様子が、若い葉っぱを探している時のイモムシにそっくりで「お前は、あの時の…!」という気持ちになる。20年ぶりの友人を思い出す感覚だ。

 

1時間ほど経った頃、10分おきに繰り返していた羽をゆっくり開閉する動きのまま、なんの前触れもなくスッと飛び立った。近くの何かに捕まるのかなと思いきや、そのまま5階のベランダから外へ、ヒラヒラと消えていった。

戻ってくるかなと少し周りを見渡したが、もうどこにいるかもわからなかった。

 

 

それからしばらく経ち、コブミカンも生い茂り、若い葉っぱも次々生えてきているが、蝶はやってこないまま冬になってしまった。

どこかの隅っこでサナギが冬を越し、来年の春に羽化してやってくるまでコブミカンを大事に育てたいと思っている。

 

来年が健やかな年でありますように。

良いお年を。

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